[小説] 美波とは
龍の館の秘密―激アルバイター・美波の事件簿〈2〉 (富士見ミステリー文庫)
▼あらすじ
行方不明になった父を捜すための資金稼ぎとして、日々アルバイトに励む高校1年生の倉西美波。
今回やることになったのは、「立っているだけで一日二万円」の仕事!
そして、その仕事の成り行きで、なせか京都にある〈龍の館〉という画家の館を訪ねることに。
そこで美波を待っていたのは、またもや殺人事件だった!!
▼感想
ジャンルとしては、一応〈館もの〉になりますが、フューチャーされるのはあくまで、その「一部」。
そのため、〈館〉という閉鎖空間におけるサスペンス、という展開ではありません。
本シリーズの作品は、大雑把にいって前半が〈アルバイト〉パート、後半が〈ミステリー〉パート、といった構成になっています。
前作では、アルバイト自体が〈ミステリー〉(≒事件)と密接に関わっていたのですが、
本作では、直接的な繋がりはありません。
そのため、どうしても漫然と物語が進み、全体的に冗長な印象を受けます。
〈アルバイト〉というイベントは、美波が成長していくためのトライアルとして、作劇上、必要だと思いますが、
もう少し〈ミステリー〉と緊密に連関するプロット作りをして欲しいです。
キャラ達も相変わらずかわいらしく、少女趣味全開なので、そういった意味でも人を選ぶ作品といえます。
本シリーズ自体は、端正で、“本格マインド”を持った古き良きジュブナイル、といった希少なものなので、今後に期待します。
激アルバイター・美波の事件簿 天使が開けた密室 (富士見ミステリー文庫)
▼あらすじ
行方不明になった父を捜すための資金稼ぎとして、
日々アルバイトに励む高校1年生の倉西美波。
そんな美波に「一晩寝てるだけで五千円」という
おいしいバイトの話がまわってくる。
しかし、そこで彼女を待っていたのは「死体」だった!!
▼感想
作品全体の雰囲気は、ライトノベルという言葉が存在しなかった頃の
少女小説や赤川次郎作品を思わせるクラシカルなもの。
登場人物もいかにも、という類型性を感じさせますが、
逆にそこを「お約束」として受容できる人は、楽しめると思います。
主人公の美波は、時に猪突猛進な無鉄砲さを発揮しますが、
基本的には引っ込み思案で泣き虫な女の子。
「父親捜し」という目的がなければ、
バイトもやっていないようなタイプです。
そんな“箱入り”の彼女が、バイトを通じて世間の厳しさに触れつつ、
持ち前の“事件引き寄せ体質”(?)によって、否応なく厄介事に
巻き込まれていく、という青春ミステリーです。
さて、本作ではタイトルに注目しておいて下さい。
ここでの「天使」と「密室」は、ダブルミーニングであったことが
読み終えてみるとわかります。
文字通り、「天使」の存在によって「密室」が開かれる(≒事件解決)
ことになるのですが、別の見方をすれば、「天使」の存在によって
「密室」がつくられた、とも取れるところが、この小説の興味深い点です。
ところで、残念ながら本作は、販売戦略上、失敗していると
言わざるを得ない点があります。
まず第一に、シリーズタイトル。
『美波の事件簿』とありますが、本作における美波は
〈探偵役〉ではないので、誤解を招きます。
なにより、『激アルバイター』という、
いかにもラノベ的な誇張表現は、
本作のカラーと合っていないばかりか、
意図とは別の意味にとられる可能性があります。
また、見るからにアニメ絵的なイラストとの相性もよくないです。
そうした理由もあってか、著者自身、本シリーズの2作目が
刊行された後の数年間、休筆状態でした。
しかしこの程、創元推理文庫から既刊2巻が再刊され、
新作である第3巻も刊行されました。
水の合ったフィールドを得た著者が、
今後とも活躍してくれることを期待します。
夢霊
桑原 美波 講談社
